e0e14001 No.5068
潮風が、昨日までの「俺」をどこかへ押し流していく。
夕暮れ時の海岸線、足元でパチパチと儚く散る線香花火の火花が、水面に揺らめいていた。浴衣の袖をまくり、しゃがみ込むその手は、見慣れないほどに華奢で、指先は滑らかだ。
だが、その内側で脈打つ鼓動だけは、紛れもなくさっきまで男だった頃の記憶を刻み続けている。
「……嘘だろ」
声に出そうとして、耳に届いたのは驚くほど透き通った少女の響きだった。
目の前に広がる青島海岸の景色は何も変わらない。しかし、見上げる夕空の広さも、肌を撫める風の冷たさも、すべてが全く新しい感覚となって身体を突き抜けていく。
男から女へ――。
世界が音を立てて塗り替わる黄昏時、俺の新しい物語が、この小さな火花とともに始まろうとしていた。