「カチャリ」という無機質な金属音が、静まり返った廊下に小さく響く。
敏美が重い木製の扉を閉め、内側から確実に鍵をかけた。
その瞬間、ついさっきまで俺の鼓動を狂わせていた双葉の執念深いため息や、教室の視線という名のノイズが、まるで真空の世界に放り出されたように完全に遮断された。
「ふう。これで一安心ね。あの子の執着心は、鍵をかけたドアの一枚や二枚、簡単に透過してきそうで怖いのだけれど」
敏美はそう言って、いつもの冷徹な仮面の下から、少しだけ呆れたような、けれど楽しげなため息を漏らした。
俺はセーラー服の襟元を少し緩め、ようやく深く息を吐き出す。
「マジで助かった。あのままだったら、今頃どこのクレープ屋で何をされてたか……」
「お疲れ様。噂の『佐藤さん』、で間違いないかしら?」
部屋の奥から、低く、落ち着いた、けれどどこか茶目っ気のある声が聞こえた。
驚いて視線を向けると、大きな木製デスクの向こう側に、一人の女子生徒が座っていた。
現・生徒会長。
敏美から「話をつけてある」と聞いていた、この聖域の新たな主だ。
彼女は書類から顔を上げると、メガネの奥の瞳を細め、品定めするように俺をじっと見つめた。
その視線は、クラスの男子のような下卑たものでも、女子のような着せ替え人形を見る目でもない。
もっとこう、新しく赴任してきた珍しい教師でも観察するかのような、純粋な知的好奇心に満ちていた。
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